2018.11.19
請川 俊之(Star FACTORY)
  • Spot
  • 天王寺・新世界・住吉

profile

2014年、株式会社Star FACTORY入社。フリーペーパーの編集、取材、 執筆をはじめ、企業ホームページのWEB原稿や広報誌の制作など、 幅広いジャンルの制作に携わる。現在は某グルメサイトの撮影を行うなど、 撮影もこなすカメライターとしても活動中。得意分野はエンタメと紀行文。 西成生まれ、西成育ち、一部伊丹成分が入ったほぼ生粋の大阪人だが、あまりそうは見られない。

外国人溢れる街西成

外国人が思わず泊まりたくなる!?
イマドキの西成事情を調べてみました!

かつては労働者が集まる街として栄えた、通称釜ヶ崎周辺。今では通信手段が発達し、職業案内所に詰めかける必要性が薄れたことや、労働者の高齢化が進んだこともあり状況が激変しています。労働者の代わりに西成を訪れるようになったのは何と外国人観光客! 地下鉄動物園前駅を降りてすぐの宿や店には、夜になるとたくさんの外国人が詰めかけています。その理由を探るべく街づくりに関わった関係者や、現在盛況な店を取材してみました。
外国人誘致に力を入れた宿の先駆け「ホテルみかど」
現オーナーの山田さんがかつてバックパッカーだったこともあり、早くから外国人観光客誘致に向けて動き出していた、ホテル中央グループの「ホテルみかど」。動き出した当時の状況や、現状について、山田さんに話を伺ってみました。
「私が親から後を継いだのが28歳の頃で、今から14年くらい前になります。その当時は西成に外国人はほとんどいなかったのですが、2002年のワールドカップの時に安い宿を求めて外国人が東京の山谷に集まった、という時代の流れがありました。その後、阪南大学で国際観光学科を担当している松村先生と出会い、西成を外国人が集まる街にしたいとお話ししたら同調していただけたので、その辺りから本格的に宿の改革を始めました。取り組むべきことは数多くありましたが、まずはインターネットへの情報配信。当時大阪は外国人を積極的に呼び込もうという感じがなく、外国人がよく使うサイトへ登録している宿がほとんどない状態でしたので、早速登録しました。次に設備。もともと労働者向けの宿だったので風呂は大浴場しかなく、和室の部屋ばかりだったので、外国人のニーズに合わせて少しずつ改装。シャワールームを作ったり、ロビースペースを作ったり、Wi-Fiを全部屋で使えるようにしたりと、外国人の要望をどんどん拾って行きました。そしてもう一つの改革は、語学ができるスタッフを雇うこと。コミュニケーションが取れないと、お客様の満足度を得ることはできないので、特に力を入れました」と、山田さん。そうした地道な努力を続けた結果、今では宿泊客の多くが外国人になったそうです。そんな今でも従業員と共に、外国人に案内できる飲食店の調査に出かけることがあるのだとか。
「ホテルの周囲は目まぐるしく変化しているので、定期的に飲食店の開拓ツアーを行っています。すぐ近くに『ちとせ』というお好み焼き屋さんがあって、そこは特に広告をしていないのですが、店主さんが英語を話せることもあり、今では某旅行客向けサイトで有名になっています。その店はウチの従業員もよく案内しますし、周囲のホテルでも頻繁に案内されているので、口コミで人気が出たのかもしれません」。
このように、外国人へ確かな満足を提供してきた「ホテルみかど」。山田さんにこれからの展望を伺ってみました。
「ウチはこれまで通り、ニーズを汲み取って過ごしやすい宿にしていくだけです。希望を言えば、西成にもっと外国人を相手に商売する人が集まって欲しいですね。街が栄えるためには、様々な分野のプレーヤーが必要です。物を売るでも、料理を売るでも何でもいいので、外国人が入りたいと思える店がもっと増えてくれればいいなと思います」。
▲通常のコンセントだけでなく、USBを直接差し込めるコンセントも用意している「ホテルみかど」。設備は年々進化を続けています。
外国人に多彩なツアーを提供する教授
西成に外国人旅行客が集まり始めたのは、偶然の力だけではありません。地道な努力を重ね、その土壌を作った人がいます。先ほどの山田さんの話にも登場した、阪南大学の国際観光学部 国際観光学科で現在教授を務めている松村嘉久先生がその一人です。始めは西成でホームレスの調査をしていた松村先生ですが、阪南大の教員になって以降、簡易宿泊所組合の理事長から外国人の受け入れをするから手伝ってほしいと依頼され、2005年頃から本格的に活動を始めました。
「かつては西成に約25,000人いた労働者は、4,000〜5,000人程に減少し、街全体が危機感を覚えていました。いなくなった人をどうやって埋めていくのかを考えた時、外国人という存在に行き当たりました。しかし、外国人を呼び込むとなると、地域にも受け入れる体制が必要となります。そこで私は学生と共に観光案内所を作ったり、地域の飲食店に呼びかけて「食べ歩きマップ」を作ったりしました。また、イベントがある時に合わせてツアーを組み、外国人と共にガイドブックには載っていない大阪を巡るという活動も積み重ねてきました。正式な数はすぐに出てこないのですが、およそ1,000人は外国人を案内したと思います。西成には昔ながらの飲食店や大衆演劇場があり、外国人が興味を持つようなポテンシャルがあります。ここで活動をすることは、大阪だけでなく、日本全体にとって価値があるはずです。これからはイベントがある時だけでなく毎週行われるツアーを行い、外国人がもっと楽しめる環境を作っていきたいです。ゆくゆくは、外国人が気ままに訪れて勝手に楽しめるような、そんな街づくりができれば最高ですね」。
▲西成区山王にある大衆演劇場「オーエス劇場」。大人1,300円というリーズナブルな値段で味のある演劇が楽します。外国人にとって新鮮なスポットのようで、ツアーで案内した時は大人気と松村先生イチオシです。
▲松村先生がこれから毎週水曜日にツアーを組もうとしている「西成ジャズ」の風景。西成区太子にある「KAMA PUB」と呼ばれる店で、夜になると様々な編成で本格的なジャズの演奏が行われています。ドラマーの松浦さんが西成ジャズの仕掛け人で、この店で活動する前から西成を拠点に活動を続けていました。お客さんは真剣にジャズを聴く人ばかりで、純粋に演奏を楽しむことができます。観覧料金は投げ銭制です。
完全予約制、一見さんお断りのミュージックバー
地下鉄動物園前駅を出てすぐの場所に、外国人が毎夜のように訪れているコアなバーがあります。その名も「Music Bar Groovy」。完全予約制で一見さんお断りなのですが、店内には年代物のレコードがびっしりと並び、リクエストがあれば、レパートリーの中から好きな曲を流してくれます。マスターは生粋のレゲエファンでありプレーヤーで、ジョニー・オズボーンに会うためだけにニューヨークに行ったというツワモノ。そのニューヨークでゲストハウスを営んだ経験を生かし、西成の地でこのバーを始めたとのことです。国内の有名ミュージシャンにも知り合いがいて、ジャマイカで収録したレゲエのサウンドに合わせて、この店で歌だけレコーディングすることもあるのだとか。音楽好きなら必見で、英語が話せれば外国人と音楽の話で盛り上がること間違いなしです。
▲取材の日に最初に話したドイツ人カップル。男性はサーファーで、女性は医者になる試験を終えて旅行に来たとのこと。男性の音楽の趣味はテクノ系だそうで、取材班の一人と楽しく会話をしていました。
外国人に大人気のオオサカタコス
「Groovy」と同じく地下鉄動物園駅前駅からすぐの場所にある「旅人酒場 オオサカタコス」。街のイメージとは少々離れている気がしますが、タコスの味は抜群。新鮮なキャベツの食感が楽しめ、ソースの酸味と中の肉の旨みが混じり合って絶品です。よく通っているという人に話を伺ってみると、グリーンタバスコをかけるとなお美味しいとのことでした。この店にも外国人がたくさん訪れていて、カウンターに座ると隣が外国人という状況がざらに発生します。
▲この日はなんと、南アフリカ共和国からはるばる日本に来ていた方と遭遇。電気工学系の科学者とのことで、理知的な雰囲気が漂っていました。
このように、一昔前とは状況が一変し、今もなお変化を続けている西成・釜ヶ崎地域。外国人と交流できることはもちろんですが、店やホテルにも様々な魅力が溢れていますので、観光スポットとしてもおすすめです。

PICK UP!

スイーツ女子が集まる人気ショップ

松村先生の案内された店の中で、一際異彩を放っていたショップがあります。それがデコレーションソフトクリームを販売する「Pecca+pu(ペッカプ)」。グリーンの壁が特徴的で、内装はピンクという可愛らしいお店。ソフトクリームに様々なトッピングができ、たくさん盛ればインスタ映え必至です。なお、ムスリムフレンドリーなメニューも用意されていて、外国人対応もバッチリ。ディープな西成に少し疲れた時、息抜きにぴったりのお店なので、ぜひ訪れてみてください。